『ママレードボーイ』 「人は人、自分は自分」。だけどそれでも一つになるためには。

今回見てきたのは


『ママレードボーイ』


です!!!













<批評>二つの離れたものが一つになることの、もどかしさ・ままならなさ・そして喜びを描いた青春映画。




本作は、パートナーミックス(何じゃそりゃ笑)によって、擬似的に家族となったミキとユウの恋愛模様を通して、「相容れない二つのものが、どうやって一つになっていくのか」「別々だったものが一緒になることのもどかしさ、ままならなさ、そしてそれによる喜び」というものを描いていたように思います。


物語は、三つの過程を通して進んで行きます。


①相容れないもの同士が一つになろうとする。
②そう簡単には一つにはなれない。
③最終的に一つになる。


この三つ。


とりあえずこの三点を通して、物語を整理して見たいと思います!


重要なのが、この作品で「二つだったもの」というのがミキとユウの関係に止まらないということです。





①相容れないもの同士が一つになろうとする。


今作の序盤で出てくる関係性が以下の5つ。


・ミキとユウ

・小石川家と松浦家

・ミキとギンタ

・ミキとメイコ

・メイコとシンイチ

とうわけで、この5つの関係性に沿って物語を見ていきます。


・ミキとユウ
まずミキとユウは、擬似家族として同じ家に住み、ご想像の通り恋愛関係になります。良くある奴ですね。はい。


・小石川家と松浦家
そしてその擬似家族という微妙な関係を作り出す原因となるのが、小石川家(ミキのお家)と松浦家(ユウのお家)の「パートナーミックス」というなんともトンデモ設定な、二つの家族の合体です。「パートナーミックス」とはつまり、「二つの家族の中で奥さん同士を入れ替えちゃおう!」という発想のこと(こんなことが本当にあり得るんだろうか…)。とにかく、ミキのママとユウのママが入れ替わった家族が出来上がるのです。
そしてその奇妙さに拍車をかけるのが、昨今話題の「シェアハウス」という発想!二つの家族をミックスした上で、「おんなじ家にも住んじゃおう!」というこれまたトンデモ発想です。こんなんされたら高校生グレちゃうわ…。
こうして、小石川家と松浦家は一つ屋根のした暮らすことになるのです。


・ミキとギンタ
次にミキとギンタ。この二人はどうやら幼馴染同士らしいですが、ギンタはミキに恋心を寄せつつも一度振ってしまうという関係。ギンタの方からミキに付き合ってほしいといいよります。


・ミキとメイコ
ミキとメイコは親友同士です。とても仲良くてなんでも言い合える関係…とミキは思っているのですが…


・メイコとシンイチ
はい!ここですね!これまた昨今人気の教師と生徒の恋愛関係という奴です!メイコは教師であるシンイチ先生と禁断の関係になっているのでした。バーロー!!!そしてメイコは、その関係を親友のミキには言い出せていません。



というように序盤で、一つになろうとする二つという構図が浮かび上がります。




②そう簡単には一つにはなれない。


トンデモな関係が続発している設定内で、そう簡単に一つになろうとなんかできません。当然反発や障害があるもの。これがないと逆にドラマになりません。


・ミキとユウ
本作の主人公であるこの二人ですが、紆余曲折を経て一緒になります(ざっくり)。めっちゃラブラブで、しかも中盤でもうそんな感じになっちゃうので、これから後半はどうしていくんだろうと思わされます。


擬似家族の中で恋愛なんてもう関係性がめちゃくちゃなので家族には言い出せません。そこで「お金貯めて旅行行こう!」というミキ。それに対し「行こう!」というユウ。そして枯葉を掛け合って遊ぶ二人。どうしてこうラブラブカップルの楽しそうな姿は輝いて見えるのでしょう。羨ましい。


しかし、ユウが学生時代のふた組の両親の写真を見つけてしまうことで「もしかして、俺とミキは血の繋がった家族なのではないか?」という疑念が生まれてしまいます(実は割と飛躍した発想だったけど)。そしてそこから関係性は破綻し、ミキには何も知らされてない状態で二人の恋愛は一旦収束してしまいます。こうして二人は、せっかく一つになれたのにまた離れ離れになってしまうのです。


・小石川家と松浦家
一見一家団欒を勝ち得たかのような家族ですが、ミキの反発があったり、ユウが写真を発見したことによって疑念が生じたため、子供二人の間にはままならない思いがとりとめもなく滞り続けています。


・ミキとギンタ
テニス部に所属している二人。ダブルスの試合中にギンタが唐突にミキに告白します。とても寒いシーンになっています。ご注意ください。晴れて試合に勝ったギンタは、ミキと付き合えるのかと思いきや、ミキの意中にはすでにユウの姿が。わだかまりを残したままこの幼馴染は離れ離れになってしまいます。


・ミキとメイコ
禁断の関係がバレてしまったメイコ。そしてその関係を知らなかったミキは超ショックです。親友だと思っていたのにそんな大事なことを黙っているなんて。そんな態度を見せるミキに、メイコは「なんでもさらけ出すのが親友?」(セリフ違いますねゴメンなさい…)と言い放ち、二人の仲は崩壊したかのように思われました…。


・メイコとシンイチ
関係がバレてしまった以上学校に残れないのが先生で、シンイチ先生は実家に引っ越して家業を継ぐことになります。しかしそれを追って一緒に暮らそうとするメイコ。その願いもむなしく、先生には「こちらに残れ」と言われてしまいます。この二人も離れ離れになってしまうのです。



ということで、5つあった関係性は、それぞれに問題を生じて壊れてしまいます。ここまでが中盤から後半。




③最終的に一つになる。


さて、中盤で崩壊してしまった関係性はこれからどうなるのか!というところですね。
②から③の間で、高校生だった登場人物は皆大学生または社会人になりました。



・ミキとユウ
二人は大学に進学します。ミキは地元に残り、ユウは京都の大学へ。ここでも二人は離れ離れです。


が、二人とも相手のことが忘れられません。大学生になっても気持ちは変わりませんでした。兼ねての約束だった旅行へ行き、お互いの気持ちを確かめ合った二人。そして、ユウは秘密をついに打ち明けます。しかし「それでも一緒になりたい」という二人の熱い気持ちによって、ユウは「何があっても一生添い遂げる」という硬い覚悟を持って、ミキと一緒になる決断をします。


・小石川家と松浦家
ミキとユウの決断を打ち明けられたことによって、家族の秘密(ここではややこしいので省略)を打ち明けた両親s。それによってそれまで抱えていた秘密は晴れてなくなりました。これまで通りにまた家族として一つになることができ、六人でランチをする、というところで今作は幕を閉じます。


ちなみに、この最後のランチのシーンで、ママレードのジャムを六人で回す、という演出が印象的でした。作中では「表面だけ甘ったるくて苦いところもある」と言われているママレードを、訳ありな六人で分け合う、というところに、今作のテーマ「二つだったものが一つになる」ということが明確に表されていたと思います。


・ミキとギンタ
ギンタはミキに振られてしまいますが、それでも彼女のところへ行き、これまで通り友達でいようと告げます。男気ありますね。「困ったことがあればなんでも俺に言えよ」的な決め台詞を残して自転車で消えていくギンタ。背中に哀愁が漂います。


・ミキとメイコ
個人的にはこの関係が一番胸を打ちました!


メイコはあんな酷いことを言っておきながら、本当はミキのことが大好きだったのです。でも、だからこそ自分の汚いところを晒して嫌われたくなかった。それだけに先生との禁断の関係は打ち明けられなかったのです。


その二人が、ミキの部屋で扉越しに話すシーンは最高でした。顔を見て本当は話したいのだろうけど、「先生と一緒に暮らす」という決断をしたメイコはその決心が揺らぐまいと直接ミキの顔を見て話さない。ミキもメイコのことがやっぱり大好きで、彼女の気持ちを応援したくて顔を見れない。そんな二人が閉じられた扉越しに、声を掛け合うという。


一緒になりたい。一つになりたい。でもそれはできない。そんなもどかしさがぎゅっと詰まったシーンだったと思います。


そしてそんな二人もなんやかんや仲直りして、お互いの汚い部分をさらけ出し、それまでよりも一層深い友情を結ぶことになったのでした。めでたしめでたし。


・メイコとシンイチ
同級生が大学生になるなか、なんと先生を追いかけ結婚してしまったメイコとシンイチ(!!!)。メイコは彼の実家で主婦をしています。なんか家族の反対があったらしいことを言ってました。そりゃあそうだ。僕でも反対です。でもその反対を押し切って、先生と実家で暮らすことをメイコは決断するのですね。




ということで、今作で一つになろうとしていた二つは、晴れて実を結び、一つになることができました!!!しかし、それが単純にはいかなかったのは見ての通り。それぞれになんらかの障害を乗り越えて実を結ばせたのでした。




◯「人は人、自分は自分」。だけどそれでも一つになるためには。


作中のミキとユウのシーンでよかったな〜と思うシーンがありました。二人がブランコで遊んでいるところ。多分このシーンでお互いにお互いの気持ちを確認したのだと思うのですが、このシーンでのミキとユウの掛け合いが印象的でした。


「人は人、自分は自分て割り切らないと」的なことをミキにいうユウ。割り切らないと大人にはなれないとも。そして一緒に一つのブランコに乗る。めっちゃぶらぶら揺れます。で、危ないっつって降りるユウ。今度は隣にあるブランコに乗って、ミキと二人並走してブランコに乗ります。


ていうなんでもないようなこのシーンなんですけど、このシーンが表すものってすごい大きいと思うんですね。


まず「割り切らないと」っていうユウの発言なんですが、これは「割り切れてないミキ」に対して「全くお前は子供なんだから〜」という調子でいったセリフだったと思います。これって、二つのものは一つにはなれない、だからそこは大人になって割り切らないと、ってユウのスタンスだと思います。だから、一度は一つのブランコに乗ってミキと一つになったと思いきや、また離れてしまう。そしてまた別のブランコに乗ってミキと並走するという形になる。


僕はこれでこの話終わりでもいいかな〜と思いました。思っちゃいました。ここで終わるとしたら「二つのものは所詮分かり合えなくて、それでも並走して、一緒に並んでいくことはできるよね」的な話になると思ったんです。


でも、そっから話は進んで、二人は一つに結ばれ、離れ、そしてまた結ばれる。その過程で彼らが経験したものは一体なんだったのか。というのが今作での彼らの成長なのではないでしょうか。


大学生になった二人は旅行に行き、そこでお互いの気持ちを確かめ合う。そこでのユウこと吉沢亮が今作で一番の演技を発揮するのですが、そこで語られるのは、彼の「覚悟」でした。


血縁関係があるもの同士が結婚するのは社会的にタブーです。そんな二人を世間は快く見るとは思えないし、両親も納得はしないだろう、そして自分たちにもままならない後ろめたさが残るかもしれない。でも、それでも俺たちはお互いに一つになりたい。結ばれたい。その逆境を乗り越えてでも二人で一緒になるんだ、そしてその逆境を二人で乗り越え、彼女のことは何があっても俺が幸せにするんだ。と。


この覚悟があったからこそ、二人は前に進むことができました。そして、お互いの気持ちに気がつけたし、お互いの気持ちに正直に生きることを選択できた。


このことが物語っているのは、「自分は自分、他人は他人」的な「割り切り論」と、それにも勝ってしまう「頑固さ」なのではないかと思います。二人は所詮二人であって、それが一つになることは難しい。でも、難しいからこそ二つのものが一つになった時にはそれだけの喜びが生まれるし、相容れなかったものが一つになるというのはそれだけ素晴らしいことなんだと。


そしてその二つを結びつけるものこそが、「覚悟」なんだということをこの映画は物語っているのだと思います。逆に言えば、「覚悟」無しにはその障害を乗り越えることはできないんだと。


先に挙げた5つの関係性についてですが、各々に「覚悟」を決めた上で最後には一つになれたのではないだろうかと思います。


ミキとユウは先述の通り。二つの家族は、秘められた過去を子供達に告白するという「覚悟」を決めたことで一つの家族になることができました。ギンタについては明確にこれと出ているわけではありませんが、一度振られ未練タラタラなミキに自分から会いにいって「友達でいよう」と打ち明けるのには相当な「覚悟」が必要だったと思います。ミキとメイコは、仲違いの一件があってから「二人で汚いところも見せ合おう」という「覚悟」を持ったことでそれまで以上の親友になることができました。メイコとシンイチに関しては、メイコの「それでも一緒にいたい」という「覚悟」によって彼の実家にいくまでの決断をすることができました。


てな感じで、それぞれのキャラクターがそれぞれに「覚悟」を決めて決断することで次のステップへと、二つだったものを一つにすることができたのだと思います。


そうしたことを、漫画原作でありながら丁寧に編集し、それぞれのキャラクターに重みを持たせて描いた廣木隆一!その手腕が見て取れるものだったと思います。



最後に:


感想とはまた違うのであれなんですけど、まあ色々と思うところはあります笑。全体的に寒い…。年代を重ねた漫画原作のノリをそのまま実写にした感じがあってちょっと興ざめしたところも多数…。それでもちゃんと描きたかったものを描き出してたので見ることができました。


さっきも言った、最後のママレードジャムを回すシーンがこの作品のラストとして最高に機能していたので、そこはさすが名監督だな、と。


見る人を選ぶだろうし、見る人も(これだけの大作ぞろいのGWで)映画を選んでいるのだろうと思うこの時期ですが、この前見た『となりの怪物くん』よりはおすすめできるかも…。多分『ママレードボーイ』と『となりの怪物くん』で見るの悩んでる人多いのかな〜と思うんですが、僕としてはこちら推しです。


『となりの怪物くん』の感想はこちらです。。。内容は題名の通りです。。笑


両親sというミキとユウのふた組の両親を演じるのが豪華キャストということでも注目度高い今作、子供が高校生くらいの世代にもドンピシャなのではないでしょうか!?



ちなみに多用しているこの色は、ママレードをイメージしています!笑