12/8 『オリエント急行殺人事件』 ポワロは神か人間か?オリエント急行は越境のための装置だった!
こんばんは。
寒いですね。今日は雨が降ったので尚更寒かったです。もう今年も終わるとか終わらないとか。一年早いもんですわ。
さて、今日見てきたのは、『オリエント急行殺人事件』。
なぜ今このタイミングでこの古典とも言えるようなミステリー作品を映画化しようと思ったのか。ちょっと謎というか、何か事情があるんだろうか、それとも単に監督がやって見たかっただけなのか。そこんところはよくわかりませんが、一つ言えることは、
この映画が、世界で最も結末が知られちゃってるミステリー作品の一つだということ。
アガサクリスティーの原作が有名なのはもちろんのこと、何度も映画にされて、日本でも去年か一昨年か、三谷幸喜さんが脚本やって二夜連続ドラマになりました。これがまた豪華キャストでして、三谷さん僕も好きだから見たんですよね〜そのドラマ。めっちゃ面白かった覚えがあります。その時はこの作品に触れるのが初めてだったから、結末にも驚いたし、何より絵が豪華で見てて飽きなかった。
こちらがその時の写真。
それ以上のものを今回期待しちゃうんですよね〜笑
にしてもミステリーなのにネタバレしてても面白いとかって相当なチャレンジだと思うんですよ。これに挑戦したのってそれだけでも勇気がいることだし、それだけに期待は高まってしまうという。
さてさて、どんな作品になっているんでしょうか!?早速見てきました!!!
作品情報
あらすじ
エルサレムで事件を解決した私立探偵のエルキュール・ポワロが乗車していたオリエント急行の車内で殺人事件が発生する。被害者はその前日にポワロに身辺警護を依頼してきた大富豪、エドワード・ラチェットであった。ラチェットは12カ所を刺されて死亡していた。ポワロが聞き込み調査を実施したところ、乗客乗員の全員にアリバイがあったことが判明する。
事件の捜査は暗礁に乗り上げたかと思われたが、ポワロは天性の直観と丹念な推理で事件の真相を暴き出していく。しかし、衝撃の真相を前にしてポワロは懊悩することになる。真実を優先すべきなのか、それとも、正義を優先すべきなのかと。やがて、彼はある決断を下すことになる。
(Wikipediaより)
Murder on the Orient Express | Official Trailer [HD] | 20th Century FOX
感想
あっさりとした推理。たまにアクション!?
ストーリーなんですけど、まあ知ってる人は知っての通りのものです。特に変わりはない、と。
名探偵エルキュールポワロが、偶然にも乗ることになってしまった列車で、殺人事件が起こる。おのタイミングで雪崩が起こってしまい、列車はやむなくその場に停車。そこで名探偵が謎解きをすることになる、と。容疑者は乗り合わせた十二人(料理している人とかはカウントしなくていいんだな、ってちょっと思ってしまった)。果たして誰が犯人なのか、名探偵ポワロが推理を始める!!!
的な。
でもちょっと愚痴ってしまうと、殺人事件が起こるまでが長い!笑
ぶっちゃけいうと、事件が起こるとか誰が死ぬのかていうのはまあ予告見てればだいたいわかるわけで、早く事件が起こって早く推理を開始してほしいわけなんですね、こちらとしては。でもなんかジョニデ演じるラチェットがポワロにボディガードを依頼するくだりとか乗客を紹介するような描写とかがちらほら入ってきていて、前半は基本それだけだった気がするので、そこはちょっと正直長く感じてしまったかな、と。しかもほとんど後からの伏線になっていない。
あと、序盤にごっそり十人ちょいの登場人物が出てきて、頭こんがらがります笑。まあ名前ぐらいは予習して言った方が良いかも。
で、やっとこっから推理が始まっていくわけですね。一人ずつ取り調べをしていって、手がかりを洗い出していくポワロ。しかし、多すぎる手がかりにさすがの名探偵も困窮してしまいます。そこで出てくる愛しのカトリーヌ。
誰なんだこいつは!特に関わってはこなかったと思います。
この推理シーンは思ったよりもあっさり淡々と過ぎて言って、次々に容疑者が現れるというこの手の推理ものでは定番の流れになっていきます。「チーム・バチスタ」とか。
で、そのみんながみんな怪しい。もう真相を知っている自分にも、なんというか、お前キャラクターだったの!?みたいな驚きがあって、これは何が功を奏しているんだろう?とふと思ったら、「そうだ脇役にこれだけの役者陣を揃えたからか!」となった次第でございます。
その豹変ぶりや、ふとした時に見せるぶすっとした表情、ラリってるのに冷ややかな目を向けたりと、名だたる役者を揃えた理由がわかるような気がしました。
それから、物語の性質上やはり会話劇が中心になるのかと思ったら、途中途中にアクションシーンが3分くらい挟まってきたりと(中途半端な長さ感は否めない)、息抜きとは言わないまでもちょっとした配慮や工夫が見られて面白かったと思います。
というか、これ見ていて不安になっちゃうんですよね、正直。。。
だってあのポワロがですよ?ポワロがステッキをブンブン振り回したりして戦ったり、怪しい奴の逃走を防ごうとして高架みたいなところを駆け下りたり、最後には背中から落ちたりとかしてましたからね。
いやおじいちゃん死んじゃうよ!!!ってアワアワしてしまうという笑
まあでもこれはこれで作品に緩急つけられてるってことで良いのかな?笑そんなアクティブでハードボイルドな探偵を見せてくれた今回のケネスブラナーなのでありました。
やっぱり最後に訪れる犯人の独白場面というのが探偵物の見どころでしょう!これは文句なしでした。
こちら側にいる探偵と、あちら側にいる犯人が正面切って向かい合ってる、という構図がもうなんとも言えないスリルをにじませているというか。対決、とか対峙、とか勝負、とかそういうのが好きなんでしょうね。笑
ということで、ストーリーだけそっていくと、単純な探偵物にアクションやら演技対決やらが織り込まれた、(途中ちょっと中だるみと序盤の早く事件起きて感はあるものの)大変面白い内容でありました。
無駄にジョニーデップ
超越する乗客たち
で、ストーリー全体から感じたこの話の核、というところに入っていこうと思うのですが、ここからはさすがにネタバレを禁じ得ません。
ネタバレいたします、ご注意ください。
原作からも言われていることではありますが、この作品には『神』というものが非常に大切な存在として登場していると。
まず最初にポワロが解決する事件でも、三人の「信じる神の違う聖職者」を並べて推理してみたり。
その後には「違和感というものにひっじょうに敏感で気になって気になって仕方ないんだよね〜」みたいなセリフを言ったりとか、「善と悪は確固とした隔たりを持っていてその中間はないんだ!」というポワロのスタンスが描かれたり。
これはつまり、ポワロ自身が神なのであって、事件の当事者たちを一個超越したところから見ることで事件を解決している、と捉えることができると思います。
それから一番象徴的なのはラストポワロの推理を容疑者に述べるシーン。これは色んなところで言われてることですけども、容疑者が一列のテーブルに並んでポワロと対峙している構図はまさに『最後の晩餐』に他ならないと言えると思います。ここでも『神』という存在が見え隠れする。
しかし、そんなポワロの「善と悪」という確固とした基準、「法律とは」「神とは」みたいな「秩序と感情」と言った問題が、最後に大きく転換しますね。これが本作のテーマとも言えるでしょう。
ラチェットが起こした幼児殺人事件によって崩壊してしまったアームストロング大佐一家の復讐のために、その一家を慕っていた十二人がラチェットを殺害した。全員が共犯という状況の急行内で殺人事件を起こそうという計画が、名探偵の同乗という偶然によって齟齬をきたし、やむなくアリバイを作るために乗客十二人が芝居を打っていた、というわけだったのです。
その動機に思い当たったポワロは、それまでにはなかった「これは善なのか悪なのか」という問いにぶち当たってしまい、答えを出せなくなってしまう。ことの決着は、ついに犯人たちに任せてしまうのです。
これは見方によっては、ポワロは神に判断をお任せした、とも言えるのではないでしょうか?捕まろうが隠蔽しようが神のみぞ知るところ、私の知ったところではない、お任せしますよ、と。
つまり、それまで神の位置に立って事件を見下ろしていたポワロ自身が、人間のいるところまで降りてきたということです。これが今作の、原作を通してのハイライトとも言えるのではないでしょうか。
でも、これまでの流れからいって、そこまでポワロがくよくよ悩む理由がわかりませんでした。。。推理が急に飛躍したとか「なんでそんなことまでわかるん!?」っていう場面も多々あったので余計に、善と悪に悩むポワロに追いつかなくなってしまったのです。
しかし!
重大なことを見落としていたことに後々気づきました。
重大なこととは、アームストロング大佐の事件にポワロ自身が関わっていた、ということです。
実はこれ原作から改変されているところだそうで、ということはつまり作り手がなんらかの意図を持っているということなんでしょうね。
どんな風に関わっていたのかというと、ラチェットの幼児殺人事件に協力するように頼まれていたポワロですが、その協力よりも早く容疑者としてメイドさんが容疑をかけられてしまい、それを苦にしてメイドさんは自殺、アームストロング一家は崩壊してしまいました。
もっと早く自分が事件に協力していれば、という後悔の念があったことは作中からも感じ取れます。
しかもポワロはおそらく犯罪をひどく憎んでいる人間なんでしょう。ラチェットから「ボディガードを頼みたい」と言われた時(そもそもこんな老人にボディガード頼むというのがおかしい。どう考えてもジョニデの方が強そう)、「犯罪者の敬語なんぞしない」みたいな感じで追い返していました。ここでも「善は善、悪は悪」という価値観が出ています。
しかし!
ここで重要なのは、その感情を十二人の犯人たちも持ち合わせていたことです。犯人たちは、慕っていた大佐の一家を崩壊させたラチェットを憎み殺害した、そしてその感情は、同じく悪を憎むポワロももちあわせているものだった。
僕はポワロは今回の事件で初めて、「犯人に共感する」という事態を経験したのではないかと思います。
それは彼にとっては衝撃的なことだったでしょう。だってこちら側、つまり正義の側にいると思っていた自分も、あちら側すなわち犯罪者の側にいっていたかもしれないということの証明なのです。
悪を憎むことで悪の側に行ってしまう。その怖さと、何より「自分は神なんかじゃない、人間なんだ」という発見が、彼を迷わせたのかもしれません。
だからこの話は、神の位置にいたポワロが人間の位置にまで降りてくる話、とも取れるかもしれないな、と思いました。
それから別段ですが、改変ということでもう一つ。今回では出身や職業と言ったキャラクターの差別化に加えて黒人キャラを登場させることでさらに国際色が豊かになっています。
この差別とか人種主義とか右翼かとかが叫ばれる今日に黒人キャラを登場させたというところにもきっとなんかあるんでしょう。
結果として十二人が協力し、共犯関係になることで成立する今回のトリックですけど、言い方を変えれば、「オリエント急行殺人事件は、人種も超えて職業も貧富も超えて協力することができた賜物」とも言えるでしょう。そしてその壁を越えさせたものが「憎しみ」「復讐」ということであったというのもなんとも言えません。
共通の敵を持ってすればどんな人間とも強力で切る、あるいは、大きな憎しみを持ってすれば小さな憎しみも越えることができる、という解釈もまあ無理やりですけど可能ではある。。。
そんな恐ろしいことは考えてはいないでしょうが。。。
そもそもオリエント急行というものが、東洋から西洋に行く列車(であってるよね!?)ということだから、これそのものが『越境』ということを表しているとも言えなくもない。ポワロは神から人へと越境し、犯人は人種や国境を、あるいは善人から殺人犯へと越境した。
だからオリエント急行は東洋と西洋の途中で足止め喰らうわけですね。これは登場人物がまさに「越境」しているところですよ、って意味なのかもしれません。
そうなると最終的に「善と悪」というこの二つの境はどのようにして越えられるのか、越えて良いものなのか、この十二人は超えたのか、、、、
なんかわからなくなってきた笑
今日はここらへんにしときましょうかね笑
最後に
もうちょっとだけ話すと、
このポスター見てもわかるように、この映画すごい絵が綺麗なんですよね。タイトルからして、列車でのシーンが多くなることは想像に難くないですが、それだけでなく、序盤に出てくる街並みや、風景の描写が素晴らしい。というか、どこかファンタジックな作りになっているな、と。
列車が駆け抜ける丘陵地帯とか、列車が止まってしまう雪山の勾配のきつさ加減、それを遠く引き目で描くことによる緊張感、スリル。それからラストシーンでポワロの向こうからさす優しい夕日。「これはフィクションなんだよ」と、いやらしくではなく、優しく、観客を映画の世界に誘うようなそういう背景や美術だったと思います。
それから美術で言えばやはり列車内の作り。撮影用に二つ列車のセットを用意したとか。食堂やら乗客の部屋になっている車両(やばい語彙力がない)、映画の中心となるシーンはやはりこの辺りで限られてきてしまうので、背景や情景と同様に、いかにも、な様式寝台列車の格好をしていて世界観に入り込めるんですね。
これはすごくよかったな、と。
あと!
僕予告で流れてたBGMのイマジンドラゴンズの「Believer」って曲がすげえかっこいいな〜って思ってたのに
なんと!
劇中どころかエンドロールでも一回も流れない!
悲しかった〜〜。どうぞこちらお聴きください。重低音強めのかっこいい曲ですよ!
Imagine Dragons - Believer
今回はなぜかちょっと深めの話になるという「夜に長い話をするべきではないね!」って感じの締めになってしまいました。
是非劇場でご覧になってください!
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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