『娼年』松坂桃李の勇姿をしかとやきつけろ!!

今回見て来たのは、


『娼年』


です!!!






ストーリー

主人公の森中領は東京の名門大学生。日々の生活や女性との関係に退屈し、バーでのバイトに明け暮れる無気力な生活を送っている。ある日、美しい女性がバーに現れた。女性の名前は御堂静香。「女なんてつまんないよ」という領に静香は"情熱の試験"を受けさせる。それは、静香が手がける会員制ボーイズクラブ、「Le Club Passion」に入るための試験であった。 入店を決意した領は、翌日から娼夫・リョウとして仕事を始める。最初こそ戸惑ったが、娼夫として仕事をしていくなかで、女性ひとりひとりの中に隠されている欲望の不思議さや奥深さに気づき、心惹かれ、やりがいを見つけていく



スタッフ

原作 - 石田衣良『娼年』
監督・脚本 - 三浦大輔
音楽 - 半野喜弘 and RADIQ septet


キャスト

森中領 松坂桃李
御堂静香 真飛聖
シンヤ 小柳友
咲良 冨手麻妙
アズマ 猪塚健太


予告編


松坂桃李が妥協のない性描写に挑戦!『娼年』予告編



それでは感想行って見ましょう!!!!
















これはまた凄まじいものを。傑作。松坂桃李のことを、戦隊モノ出身のイケメン俳優という人はもはやいなくなる模様。序盤のガサガサした粗雑な感じから、終盤の生き生きとした綺麗な目に至るまで、素晴らしい演技。体張ってるどころでは間に合わない。



『愛の渦』で、刺激的で官能的それでいて人間のか弱くて脆くて面白い部分をあぶりだした、三浦大輔監督。今作はやはりその系譜を踏みつつ、よりその刺激度合いを増し、あらわになる人間の欲望がこんなにも魅力的で、痛々しくて、切ないものかと思わせてくれました。


なんて長々とかっこいいこと言っちゃってますが。


とあることからボーイズクラブ(=娼夫のクラブ)のオーナー、御堂静香にスカウトされ、娼夫として生きていくことになった青年、森中領。はじめは未知の世界に怯える彼でしたが、女たちの欲望に答えるうちにその楽しさ、魅力に開花されていきます。しかしそう単純にも運ばないのがこの世界。世間とはかけ離れた快楽の世界に深く踏み入れていくうちに、彼は何かを失い、快楽の怖さすらも味わっていく。


て、簡単にまとめるとこんな感じでしょうか。話の筋としてはそこまで起伏のない、シンプルなものだったように思います。そこまで大きな伏線もあまりなく、入り組んだ人間関係もない。ある青年が特別な世界に入り、世界に目覚め、またさらに奥に入り込んでいく。なにも複雑なことは特別ありません。


しかし、何か強力な力に引き寄せられたような、とぐろを巻いて渦に引き込まれるような、そんな感覚になってしまう。かと思えば、気づくとぷかぷかと海面に浮いている。そんな感覚になりました。



まずは何と言っても松坂桃李さんでしょう!

舞台から連続してこの作品と関わり続けてきたこの俳優さんの力を遺憾なく見せつけられた作品だったと思います。




物語のはじめ、領は無気力な大学生でした。大学には行かず、かと言って友達とも遊んでる感じでもなく、バーのバイトに明け暮れている毎日。目は虚ろ(という表現がここまで当てはまることもない!)、髪はボサボサ、適当に女を持ち込んでセックスしても決して満足そうな表情は見せず毎日を送っている。そんな感じの男でした。まあぶっちゃけ松坂桃李が大学生に見えない、と言うのはありましたが、そこは映画だし、気にしないってことで。


印象的なのは彼のセリフ、「女なんてつまんないよ」。


そんな綺麗な顔した男が言うなよ!と思わず突っ込みたくなってしまいましたが、そんなことは最早どうでもよく、「女なんてつまんない」と言いながら女をつれこんでいる。連れ込んでいながら全くそれを楽しんでいない。いったい彼は日常になんの楽しみを抱いているのだろう。なんの関心もなく、なんの執着もなく生きる毎日ってどんなでしょうね。


そんな想像をさせてしまうような、目は開けているのに何も見ていないかのような、そんな目をしている松坂桃李。文字通り虚ろな目をしているわけです。虚無を見つめているかのような。


そんな彼が娼夫となってどう変わっていくのか、と言うのが今作の主な動線なのですが、その変貌ぶりが面白いです。女たちとの交流によって娼夫としてのやりがいを見つけていくにつれて、髪は整えられ、服装はまともになり、何より目はキラキラと潤っていく。水を得た魚のように、「つまらな」かった世界がどんどんカラフルになっていくのが見えました。


印象的なのが、彼が初めて笑うシーン。最初のお客さんとセックスした帰りのことでした。なんてことない会話なんです。女が「私がいつもいく歯医者さんすごい遠いところなんだけど、どうしてその歯医者に行くかわかる?」みたいなことを聞いて、領が「なんでですか?」みたいな。それだけの会話なのに、領が笑っている。それまで何しても面白くなかったのに。


でまた彼が笑うとすごく楽しそうなんですよね。無表情の時と笑顔の時で、別人のような感じがする。かと言って顔そのものがすごく違うかって言うとそうでもないんだけど、なんだか全然違う人みたいに見える。


そして言わずもがなですけれどもセックスシーンが本当にやばいっすよ!!!R18なめてましたよ!男の方のものはもろに出るわけでもないけど、激しい激しい。


しかも当たり前なんだけどAVなんかとは全然違って演技しているわけなんですよね、当たり前だけど。よくアクションシーンにそのキャラクターの個性や性格が出たりしますけど(るろ剣でいうと、剣心はスピーディーな殺陣で、左之助は乱暴な大ぶりみたいな)、この場合はセックスにその時の領の感情がもろに出てるわけなんです。


初めての仕事の時は頭の中真っ白になってわけもわからず快楽に振り回されていたりとか、客の要望にあわせて演技している時は見てわかるくらいなりきってやっていたりとか、心が落ち着いている時は穏やかな表情でしたりとか、心持ちならない時にはただ自分を没頭させるかのようなセックスをしたりとか。何回も何回もセックスシーンが出てくるんですが、その度に違う顔を見せる松坂桃李さんでした。


もちろん、体バリバリ張ってます。



女優陣もすごい。


松坂桃李さんが素晴らしいのもさることながら、それを囲む女優陣も素晴らしい。


特にいうならばクラブのオーナー、御堂静香役の真飛聖さん。そしてその娘の咲良役の冨手麻妙さん。

真飛聖さんは前のクールで見ていた『隣の家族は青く見える』にて、ザーマスママを見事厚かましく演じていたのが超記憶に残っておりましたので、その振れ幅に驚かされました。整った顔から漂う品のある色気。陶器みたいな。触れてはいけないような、簡単にはさわれないような、そんな感じの色気。最強の高嶺の花、ってところでしょうか。


かと思っていたら中盤では領と高田馬場の(!)居酒屋で酒飲んだり、そして終盤にはどこか弱いところも見せ始め、ところどころで女を見せ始める。そのギャップがどこかリアルで、弱みこそが魅力的、という本作の中心にもあるような観念を感じました。


舞台版では高岡早紀さんだったらしい。そちらはスケジュールが合わなかったんでしょうか。そちらのバージョンも見て見たい。もちろん真飛聖さんも抜群だった。



それから冨手麻妙さん。三浦監督の前作『何者』(原作含め大好き。)にも出てきたというから「何役だったんだい!?」と思ったら、クラス会で目立とうと参加費を集めるJD役だった。ほとんどセリフがなかった。佐藤健に「いい子だと思われたいだけじゃない?」と言われてるというだけの役だった。


それが!


今回これですか。こんなにいい役者さんだったのですか。初見の時は「杉咲花かな?」と思ったりもしたが、あちらは多分年齢的なものでNGがくるだろうし、何よりこれから『花男』の続編に主演するような女優さんが濃厚な濡れ場を二回も見せてくれるとは思えない。現在23歳とのことだけど、どう見たって中学生か高校生くらいにしか見えない奇跡的な童顔とあどけなさ。なんでだろう、白のワンピースとか着てるからかな?しかしそこから漂ってくる危ない匂いのする色気。無垢なだけに汚してはいけないものが近づいてくるような。そして濡れ場のエロさ。無防備に快楽を感じている様がなんともそう、危なっかしい。そんな感じの濡れ場でした。




そんな松坂桃李さん、真飛聖さん、冨手麻妙さんがフルパワーを発揮するラスト近くの山場のシーンは、舞台的な演出もさることながら、三人がそれぞれ別のところでそれぞれの快楽を求め、手にしていくという異常なセックスになっていくのだが、その説得力というか、「力」が素晴らしかったと思う。


同じ場にいて、同じ肉体的快楽を感じている三人だけど、それぞれに見ている景色が違う。具体的にいうと、領は母に重ね合わせた静香に快楽を感じているし、静香はもうできなくなったセックスを疑似体験するということに快楽を感じていて、咲良はその母の代わりを果たしていることに快楽を感じているように見える。


その三人の快楽の姿が、お互いに邪魔をせず、そうでありながら強く強く立ち上っていく。その力強さ、凄まじさ。演技合戦とはこういうことか、と思った。



また、松坂桃李さんのお客を演じた女優陣もそれぞれ良かった。


特に印象的なのは領の最初のお客さん、ヒロミ役の大谷麻衣さん。エロい。エロいよ、お姉さん。


1回目にあった時には普通のお姉さん(おばさん?)な格好だったし、ほとんど色気を感じさせない質感だったのに、2回目の登場シーンではもう早速肩を出して化粧もバッチリして。そこからの展開はまさに圧巻。欲と欲のぶつけ合いといったところ。骨の当たる音が聞こえそうなセックスの連続。あのお姉さんが?さっきまでのあのお姉さんがこうなっちゃうの?という混乱。頭が真っ白に。にしても本当に色気がすごい。


他のお客さんもみんなすごかったし、はちきれている演技でした。松坂桃李さんに引けを取らない演技だったし、松坂桃李さんを引き立たせる濡れ場だった。と思います。


快楽は人によって形を変える。

セックスにセックスを重ねる領。そしてそのお客たち。


その姿を見る中で感じたのは、快楽にはそのひとの人生や痛み欠落が影を落としているのだということ。劇中の言葉を借りれば「欲望の秘密はその人の弱いところや傷ついたところにひっそりと息づいている」。そしてだからこそ快楽への強烈な欲望は、時に魅力的で、時に痛々しく、時に凶暴で、時に滑稽で、時に無様。快楽の形はひとそれぞれで、その満たされる姿さえも見ていて同じ感情になることはない。


劇中で後ろの方の人がクスクス笑ってるんですね。セックスシーンで。


(ちなみにその人が映画終わった後、「男の人でこの映画見に来た人っておっぱいそんなに見たいのかな?」っていっていてマジで腹が立ちました。間に合ってます。)


「いやそこ笑うところないでしょ!雰囲気ぶち壊し!」とかと思ってたんですけど、でも確かにそうやって見ると笑えてくる。人が本気で気持ちよくなってるところとか、変態的な欲望をあらわにしてるところなんて見ていてやっぱり笑えるんですね。不思議なことに。


特にあれですよ、西岡徳馬さん。ダメですよあんな(サル)顔であんなことしたら。しかも桃李くんも同時にアレするって。あれは確かに笑かしに来てる気がしてしまって。しかも最後のエンドクレジットで、「西岡徳馬」って出てくるときのカットのチョイスね。本気になっている真面目な徳馬さんのお顔が拝見できるでしょう。これは笑うしかない。




というように、ひとの真面目になっているところって、どこか滑稽で間抜け。ただ、その視点を傍観者じゃなくて本気になっている当事者に戻して見ると、泣けてくるくらいに切実だったりする。


例えば、客の一人の中年女性。幼少期の体験から、失禁とエクスタシーに強い結びつきがあり、その様を他者に見られたいという願望がありました。端から見ていれば絶叫しながら勢いよく失禁しているおばさんは少し間抜けに見えます。だけど、本人からしたら、何十年かぶりにかなった念願の一瞬だったわけです。ずっと待ち焦がれていた本当のエクスタシーに、そのとき何十年かぶりにまた再会できたわけです。そしてそれを叶えるのが、娼夫の仕事であり、やりがいでもあると。


そんな、ひとの欲望の叶うところっていうのは、実は感動的で切なくて、間抜けかもしれないけど大切な一瞬なのかもしれない。そんな風に思わされました。不恰好で業の深い人間の様を描き出し、その上でそんな不恰好なところも含めて人間を肯定されたような、そんな気になりました。欲望とか快楽を描くことによる、人間賛歌、そんな捉え方もできるのではないでしょうか。



手に入れたものの代償として、何かを失わなければけない

個人的に一番感情を揺さぶられたのが、大学の友達の恵とセックスするところ。序盤から恵は登場してるんですけど、領のことが好きなのがもうわかるわけですね。でも領は見向きもしない。そこで領が娼夫をやっていることを知って「汚いよ領くん!」と。まあ普通の反応ではこうなりますよ。



しかし、その領のしごとに対する情熱というか気持ちの構えを知りたくて領を買うという、倒錯した行動にるわけです、汚いと思っている人を「買う」。そこまでしても振り向いて欲しかったんですね。


そしてその結果、領は戸惑いながらもセックスするわけなんだけど、恵の喘ぎ声が次第に泣き声へと変わっていく。気づくと本当に号泣している。その涙は一体何なんだ、ってわけなんですけど、僕には領の仕事に対する強い思いややりがいを強く気づかされ、同時に、領が本当に遠くへと行ってしまったことに対する喪失感を感じている、そんな風に見えました。最後には領の強い思いを認める恵。それによってまた領も大切な存在(これは恋愛感情ではないとは思いますが)をなくしてしまったことに気づき、泣く。


本当に自分が大切と思えるものを大切にすることで、誰かを失わなければいけない。自分と同じ世界に生きていた人が、もう絶対的に違う世界にいることを思い知ってしまう。そんな二人の悲しみに、見ている人も涙を流さずにいられないシーンだったと思います。


そんな領が、ベッドで泣きながらいうセリフ。「落ち着いたらさ、またバーに来てよ。恵はいつでもただだからさ」絶対的に違う世界へと引き離された二人が、いつかまた同じ場所に戻ってくるかもしれない、そんな光を感じるセリフでした。



もう一個だけ印象的なシーンがあるとすれば東という売れっ子娼夫の「あるシーン」、性癖の下りもですね。あれだけは本当に痛々しくて見てられなかった。。。どの過激なシーンよりも過激です。劇場からもヒーヒーと息が上がっているのが聞こえました。



最後に。


見終わった後に、一人で来てたおっさんがJD二人組に向かって「エッチだったけど面白かったよなあ?へへへ」みたいなことを言っていてマジでキモかったっす。そういうことだけはしないでくれ。頼むから。


間違いなく松坂桃李の代表作になるだろうと思います。そしてそんな彼を脇役に回して役所広司と江口洋介をガチガチにぶつけさす『孤狼の血』、一体どうなってしまうんだ!?!?


それから『不能犯』などなど、最近悪役や荒んだ役ばっかりで松坂桃李くんの精神衛生状態が心配です。


そろそろ『湯を沸かすほどの熱い愛』みたいな好青年役を!誰か!誰か!!!



80点