『レッドスパロー』 アクションを濡れ場に置き換えたアトミックブロンド!表情をコロコロと変えるノンアクションスパイ映画でした。

今回見てきたのは、


『レッドスパロー』!!!


です!!!







なんとも形容しがたい珍しいノンアクション・スパイ映画。それだけにガチ度を感じました!頼むからカップルでは行かないで!!!



後から知ったんですけど、この話原作はモノホンの元CIAの方が老後の暇つぶしに(?)書いたものなんだとか。これがデビュー作なんだと。これ聞いてなるほど〜と思いました。派手なアクションやらガジェットやらを極力排したのは、その業界の本当の姿に迫るためだったのか、と。



コロコロと変わる展開に、どんな言葉でもくくれないスパイ映画!


観る前の僕はまあそのポスターのビジュアルとかから勝手に「赤い『アトミックブロンド』みたいなやつなんだろうな〜」くらいに考えていたわけです。そこまでアクションはないとは聞いていたけど、まあそんな感じの、騙し騙され、スパイどおしの戦いが描かれるんだろう、みたいな。蓋を開けて観ると、その予想は概ね間違いじゃないんだけど、でもそれだけじゃない、なんとも不思議なスパイ映画でした。

↑アトミックブロンド


まず冒頭のシーン。かっこいいんだこれが。


派手な何かがあるというわけでは決してないんだけど、ゾクゾクさせる音楽と映像、それからおそらく話のメインになるだろう女と男の動線を交互に追っていくカットがかっこいい。何が起こるんだ?何が始まるんだこれから?という期待を観客ににじませて、ぐっと映画に見るものを引き込む。情報量が多かったりアクションシーンがあったりはしないんだけど気になってしまうオープニングでした。


そこで説明される本作の主人公、ドミニカ・エゴロワ。ジェニファーローレンスさんが演じています。基本的にこの映画はこのドミニカの動線を追っていく話になります。


くだんのオープニングで、ドミニカはボリショイバレエ団の花形バレリーナだったということ、それからその母がなんらかの病気を患っていて、介護が必要だってことがわかる。華やかなバレエの世界とは裏腹に実家での彼女は、母思いで、貧相な暮らしをしているという対比。この対比が後々重要になってくるわけです。


そして話は、そのドミニカがバレエの公演中に怪我をしてしまうところから始まると。


怪我をしたためにバレエ人生が断たれてしまう。介護が必要な母親はバレエ団のお金で介護費用を養ってもらっていて、ドミニカ自身の生活もこのままだとままならなくなってしまう。どうしようお母さん。。。


そこに現れる叔父さん、ワーニャエゴロワ。なんだか怪しい感じですが、ロシア情報局の偉い人らしい。そのおじさんに渡されるボイスレコーダー。それを聞いて見ると、実は事故だと思われていた怪我は仕組まれていたものだったことがわかる。怒りと嫉妬に駆られて仕返しをしてしまうドミニカ。


しかし今度は、彼女のそこまでの行動をお見通しだったおじさんに今度は弱みを握られてしまう。彼女の金銭的な状況をも掴んでいるおじさんは、ドミニカをスパイにするための養成機関に送り込むことで全てを解決してやる、とこうくるわけです。その事件を機に、ドミニカはロシアの女スパイ、通称「スパロー」への道へと巻き込まれていきます。


とここまで見ると、「国家に運命を左右されていく女の話」という感じです。まあそれも大筋ではあっている。だけどそう形容してしまうとこぼれてしまう話があまりに多すぎてそんな簡単にくくれない、というのがここからの流れです。本当に、三十分ごとに話の”色”、とでもいいましょうか、展開がコロコロ変わる、いくつもの側面が見えてくるんですね。ここが面白い!


スパイ養成学校に行ったドミニカ。そこでは想像を絶する過酷な訓練が待っていました。とはいえここでいう過酷って肉体的な過酷では決してなくて。ここが普通のスパイものとは違くて。要するに、「国家に使えるものなら体を国家に捧げなさい、特に女なら。」っていう教えを徹底的に叩き込まれるわけです。


…わかりますよね?羞恥心を徹底的に捨てて、どこであろうと、誰が相手であろうと、どんなプレイであろうと、国家のためなら体を使ってなんでもしなさい、ってわけです。


最初こそ躊躇するドミニカですが、次第にその状況に慣れていき、鉄仮面のような表情で体をご奉仕するように…。


この辺り、本当にジェニファーローレンスが体張っていて、「ジェニファー大丈夫…?ああそんなことまでしなくていいのに…」みたいな感情になってしまいました笑笑。ていうか実際、彼女があまりに鉄仮面なので、興奮する前にどこか冷めた感情で彼女の体を見てしまうようなシーンもあって。まあただドミニカが次第に環境に適応し、自らの運命というかスパローとしての仕事を受け入れていく様が伝わってきました。


ただ、彼女が本当に心を国家に捧げている様子ではないことは見ていればわかります。他のスパイのように、本気で国家のためにやっているのではない。あくまで母の生活を守るためだ、というところは決して変わらないんだ、というのがわかる。その信念だけは最後まで変わらないものでした。



はい、で、養成機関をなんやかんやで解き放たれたドミニカは早速任務へ。アメリカ諜報員とコンタクトをとって「モグラ」ことロシア情報局内にいると言われている内通者を探し出すことを命じられます。


こっからは正真正銘のスパイもの。どこまで心を許し、どこから駆け引きなのか。見るものの脳細胞を刺激する心理戦が始まります。


ただ、ここからもアクションがあったりするわけでは全くなくて、ひたすらにハニートラップの仕掛けあい。予告でもありましたけど、アメリカ諜報員ネイトの通うプールにエッロい水着で出かけていくドミニカ。確かにあんな水着で毎日出かけていたらナンパでもしたくなってしまう。。。




ちなみに本編だとビキニっぽくなっていて、胸元が開いていた水着でしたけど、日本版の予告だとスクール水着みたいな感じになっていました。そういうところでもコンプライアンス?とか考えるんでしょうか?どうでもいいけど。



映画「レッド・スパロー」TVCM15秒(ドミニカ編)
(この予告の8秒のシーンですね。)


しかし相手も諜報員。敵の手口はすぐに見抜いてしまいます。すぐに本性を見抜かれてしまったドミニカ。大ピンチかと思いきや味方に引き寄せようとするネイト。こいつもこいつで破天荒ものです。こうした駆け引きから、いつのまにか二重スパイとしてアメリカのサイドに立ったドミニカ。これによって二重スパイものとしてのサスペンスへと物語は変貌していきます。


その展開の中で出色なのが、上院議員補佐を出し抜こうとする作戦。


抑えたトーンのこの作品で、冷や汗をかかせる一番の盛り上がりポイントといってもいいでしょう。重たい任務を背負わされ手元が狂うドミニカ。それをフォローするアメリカのチーム。そしてドミニカの怪しい動きに目を光らせるロシア上司。三方向の動きを様々なカットを交えて効果的に見せています。


そしてそこからの展開はさらにピッチを上げて先の見えないサスペンスへと。拷問は痛めつけるというよりは精神的な苦痛を与えるものなだけに逆に見ていられない。さらにあっと驚くどんでん返しあり、ドミニカの一世一代の大芝居あり、今作唯一のアクションシーンあり。


一つだけ言えるのは、ドミニカが本当は何を考えているのか、この段階だと本当にわからなくなってしまうということ。その様は恐ろしく、人間であることすら放棄してしまったかのよう。前半の鉄仮面な一面とはまた違って、どこまでが演技でどこからが本当の彼女なのか、彼女の心情の動線を追っていたつもりの観客にも、いつの間にかわからなくなっているという驚き。


でも色々考えても結局結論は「そこ」なんだよね、という一点に落ち着くのがなんだろう、僕は安心しましたけどね。



というわけで、
国家に運命を支配される女系映画か。
→スパイ養成もの?(なんだそのくくりは)
→スパイ映画と見せかけたAVだったのか!?(←失礼)
→お!いよいよ二重スパイもの!
→二重スパイ…でいいんだよね…?
→ここにきてどんでん返し!

みたいな、コロコロと変わっていく展開に目が離せないのであります。


個人的にはスパイ映画というもののアクションがほぼなかったのが意外でした。



未完全な主人公、好対照なキャラクター


もう一つ意外だったといえば、女スパイという設定にもかかわらず、主役のドミニカが割と「弱い」女性として描かれているような気がしたんです。完璧で冷徹に徹していた『アトミックブロンド』と対比しても、ドミニカはどこか不完全。


二重スパイの容疑で逮捕、拷問された時だって、完全に無表情で対応しているわけではない。むしろ怯えきった顔で容疑を否定している。それから冷酷なおじさんには基本的にちょっと怯えたような表情だし(!)。まあスパイになる前の彼女だったりとか、スパイとして出来上がっていく過程の彼女が未完全なのは当たり前なんですけど、それにしてもどこか危うさの残るスパイとして主人公が描かれていたのが意外でした。


そしてその不完全なスパイだったドミニカが最後にはどのような行動をとるのか、どのような決断を下すのか、ラストカットの彼女の表情がドミニカの内面的な激変を物語っているような気がして恐ろしさすら覚えました。



あとは、叔父さんが怖いw


プーチンに明らかに似ているマッチョ叔父さん。どこまで人の運命を握っているのか底のしれない冷徹さに、ドミニカだけじゃなくてこちらまで慄いてしまいます…。


てかめっちゃダンディなんだよな〜、ザ・できる男!っていうか感じのエロス。。。


叔父さん

プーチン



不完全だけどそこに危うさと強さを感じるドミニカと、完璧冷徹でそこにエロスを感じる叔父さんが好対照でした。



難点もちらほら。


ただ長いなぁというのもぶっちゃけありまして。なんたって140分。これだけの展開を盛り込んだらそりゃあ長くなりますわ。正直いうと、最初の方の養成所いくまでとか、養成所でのなんやかんやとかは省力できたりするんじゃないかとか、もう初っ端からスパイとして世にでるところからやって後追いでその前日譚は説明するとか、とにかくうまいこと編集して短くできなかったかなあという感じはあります。。。


あとは、元トップバレリーナがいきなりスパイとか顔バレ大丈夫?みたいなところとか、そんな簡単にロシアスパイを信じて大丈夫かCIAとか、色々ツッコミどころはありますね。(前者に関しては最近の韓国映画『悪女』でも暗殺者として世の中に潜伏中の女が女優やってるって設定があって、似てるな〜と思いました。)



疲れるよ。あと濡れ場わりとあるよ。


それからこれは好みの分かれるところかもしれないんですが、全体的なトーンがひっじょうに落ち着いている。落ち着いているというか、局所的にしか盛り上げどころを設定していないというか。とにかく、つまらないわけでは決してないんですが、派手な展開で楽しませるような映画ではないんです。


見てて飽きはしないんだけど、特に終盤は頭を使う映画であることは確か。そして序盤は主人公の悲劇に胸が詰まったり、養成所での過酷な羞恥プレイに眉をひそめたり、辛い。だからと言って爽快感のあるシーンがあるわけではないような。まあ最後のどんでん返しは爽快というか驚きでしたが。


僕はこの緊張感を楽しめた気はするのですが、それでも見終わって疲れたのは事実です笑。


後女性の裸シーンが多かったり、割とポンポンとジェニファーが脱いで行くので面食らってしまうかも。比率的には、アクションシーンを濡れ場にした『アトミックブロンド』みたいな感じですw


しかも男のアレまで丸見え!


隣で見ていたのは大学生カップルくらいだったと思うのですが、見終わった後に劇場を出て行く彼女が死んだ目をしていました。春物のピンクのカーディガンとかを着ていた彼女。きっともっとキラキラした映画を見たかったんだろうな。かわいそう。。。



最後に:ドミニカが守りたかったものとは。


そうはいっても、ドミニカがなぜあそこまでの大芝居をして大仕掛けをしたのか、彼女は何をしたかったのか、何を目指していたのか、そう言ったところは最後にはっきりするのかな〜と思います。なんだかんだ言って愛の話なんだろうと。それは男に対しての愛もあるし、それ以外の愛もある。登場人物によっては意外な方向での愛国、と捉えられもできるのかな、と。


でかいでかいことをして、国家をまきこんで、でも実際にその動機になったのは身近な人を守るため、てこういう話、僕割と好きなんでラストにはほっとしました。


それから前半である人物が言う「人にはいろいろな人生がある、そうだろう?」みたいな(不確かですが)セリフがあって、終盤のどんでん返しでその真意が明らかになるんですが、このセリフも印象的。


結果として彼女は一つだけではない人生を重複して生きて行くことになっていると思うんです。人にはいろいろな側面がある。国家に使える雀<スパロー>としての人生、病気を抱えた母を世話する娘としての人生、元バレリーナとしての人生、そして…。


そしてその全てを兼ね備えた人生が「自分」なんだと。彼女はこの物語を通して「自分」を「自分」たらしめることにやっと成功したのだろうと思いました。国家のためにバレエをするでもなく、国家のために体を捧げるでもなく、自分が守りたいものを守るための人生。それを邪魔する存在を追いやることに成功してやっと彼女は「自分」の人生を手にいれた。でもどうしてだろう、その「自分」を手にいれたはずの彼女の顔はどこか冷たいものにも見えました。


彼女には守りたいものを守る過程で、通常の生活では決して味わうことのないだろう経験をし、それによって何か大きなものを無くしてしまったような気がしました。やはり「特別でありたい」と言う願望と、「自分」のまま生きたいと言う願望を両立させるには、大きな代償が必要だったのかもな、と思わされました。



あと終盤、電話かかってきて何だろうと思って出ると声はなくて思い出の音楽が聞こえてくるっていうシーンがあるんですね。なんか見たことあるな〜と思ったら『コンサルタント』のラストに似てるな、と。ここに姿はないけど、あなたのことを思っています、みたいな。いいですよねこういうシーン。





思ったより赤が出てこないとか、銀髪にしたジェニファーがはやりアトミックブロンドっぽいとか色々ありますが一つだけ!



ジェニファーローレンスってテラハのnikiちゃんに似てません!?目元とか!!!


似てねえか。



そしてやはり叔父さんはプーチンに似ている!!!







65点/100点